◆はじめに
AI関連発明の特許出願において、「技術的思想があるかどうか」は、審査で極めて重要な観点とされます。単なるアイデアやビジネス的手法、またはデータ処理の一形態にとどまる記載は、技術的思想の欠如として拒絶される可能性があります。
1. 「技術的思想」とは何か?
日本特許法における「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)と定義されています。つまり、「技術的思想」がなければ発明とは認められず、出願自体が成立しない可能性があります。ここでの「技術的思想」とは、具体的な構成や手段によって、何らかの技術的課題を解決するための合理的な仕組みのことを指します。
2. 技術的思想が認められる例
以下のような記載があれば、「技術的思想あり」と判断される傾向にあります:
– 入力装置、演算装置、記憶装置などハードウェア構成と連携した処理手段
– 特定のAIアルゴリズムに基づいた処理フロー(例:ニューラルネットの重み更新処理)
– データ処理によって制御信号やユーザインタフェースが変更される仕組み
3. 技術的思想が否定されるリスク例
以下のような場合、技術的思想の欠如を理由に拒絶される可能性があります:
– 「AIにより診断を行う」などの結果のみ記載され、実施手段が不明
– 「業務効率化が図られる」などのビジネス的効果に終始している
– 入出力の内容が曖昧で、ソフトウェアとしての構成が記載されていない
4. 出願時に配慮すべきポイント
AI関連発明を特許出願する際には、審査で技術的思想の有無が厳しく問われるため、出願書類においてもそれを明確に示す記載が求められます。以下に、記載時に配慮すべきポイントを解説します。
(1) 課題 → 構成 → 効果 の論理構成を意識する
出願書類では、従来技術における課題(例:判断精度の低さ、処理速度の遅さなど)を明確にし、それに対してどのような構成で解決を図るかを具体的に記載することが重要です。また、解決によって得られる技術的効果(例:処理の高速化、判断精度の向上など)を論理的に説明することで、発明としての技術的思想を一貫して伝えることができます。
(2) 処理フローの具体的な記載
AIによる処理の流れを、ステップバイステップで記載しましょう。たとえば、入力データの前処理、特徴抽出、モデル適用、結果出力という流れを、図や擬似コードと併用して説明すると、審査官の理解を助けます。また、学習プロセスが関わる場合は、教師あり/教師なし学習の別や、学習データの構造にも触れると効果的です。
(3) ハードウェアとの連携
AI処理を実行する装置の構成要素(センサ、カメラ、演算ユニット、メモリ、出力装置など)を明示し、それぞれのユニットがどのようにAI処理に関与するかを記載します。たとえば「画像取得部が取得した画像を前処理部が正規化し、推論部がAIモデルにより解析する」といった具体的な連携を示すことで、ハードウェアを含む技術的思想が明確になります。
(4) ソフトウェア構成の詳細化
AI処理が複数の機能やモジュールに分かれている場合、それぞれの機能単位に分けて記載することが望まれます。たとえば「学習データ取得モジュール」「特徴抽出モジュール」「推論モジュール」などに分け、そのインタフェースや入出力データの形式なども明示すると、ソフトウェア構成の技術性が伝わります。
(5) データの技術的意味づけ
単なる「入力データ」「出力データ」という記載ではなく、それらがシステムの技術的構成要素にどのような意味を持つかを説明することが必要です。例えば、「加速度センサからの三軸データをもとに異常運転を検知する」といった、入力と出力が持つ技術的機能の関係を明示することで、審査官にとって再現可能な技術的構成として認識されやすくなります。
◆まとめ
AI関連発明の出願においては、アイデアや業務目的だけでなく、それをどのような構成で、どのように動作させるのか、という技術的な説明が不可欠です。審査官にとって、「再現可能な技術」として理解できるかどうかが鍵となるため、技術的思想の明示は必須要素となります。