◆はじめに
AI関連発明の特許出願においては、審査段階でさまざまな拒絶理由が通知されることが少なくありません。本記事では、AI発明に特有の拒絶理由とその対応パターン、そして技術分野特有の留意点について解説します。
1. 拒絶理由の主なパターン
以下に、AI関連出願で頻出する拒絶理由の主なパターンを示します。
(1)特許法第29条第1項:新規性欠如
従来のAI技術や類似のデータ処理技術が引用文献に開示されている場合、新規性がないとして拒絶されることがあります。特に、単なるニューラルネットの適用や一般的な学習モデルの記載だけでは、新規性を認めてもらえないケースが多く見られます。
(2)特許法第29条第2項:進歩性欠如
従来のAI手法と同様のアーキテクチャや学習方法を採用している場合、進歩性がないとされやすい傾向にあります。特に、既存のモデル構成に対して単に用途を変えただけのように見える発明は要注意です。
(3)特許法第36条第4項第1号:不明確な記載
AIモデルのブラックボックス的な説明により、発明の構成や作用効果が不明確であるとされるケースです。「学習させる」「推論する」といった曖昧な動詞の多用や、モデル構成の詳細が不十分な場合に該当します。
(4)特許法第36条第6項第1号:サポート要件違反
請求項で記載した技術的特徴に対し、明細書でその裏付けとなる実施例や構成説明が十分でない場合に適用されます。AI関連では、モデル構成、データの処理方法、学習・推論結果などの説明が薄い場合に指摘される傾向があります。
2. 対応方針の基本パターン
(1)構成の明確化と図面の活用
抽象的な処理内容を、構成図やフローチャートにより具体化することで、審査官の理解を促し、明確性やサポート要件を充足しやすくなります。AI処理を担う「ユニット」や処理手順を明確にすることが重要です。
(2)技術的課題と効果の明示
単なる「分類精度の向上」「効率化」ではなく、なぜそのような効果が得られるのか、どの構成が課題解決に寄与しているのかを論理的に説明する必要があります。
(3)従来技術との差異を明確化
引用文献と本願発明との構成上の違いを明示し、それに基づいた技術的効果や非自明性を論じることが求められます。
(4)補正の活用
審査段階で明細書の記載を活かした補正を行い、請求項を技術的に明確かつ限定的に修正することで、拒絶理由を解消することが可能です。
3. AI技術特有の注意点
(1)学習済みモデルは「手段」として位置付ける
単に「学習済みモデルを用いる」といった記載では、技術的思想があるとは認められにくく、それがどのように処理構成に組み込まれているかを記載することが重要です。
(2)データの技術的意味づけが必要
入力データ・出力データの技術的意味、センサや機器との関係性を明記することで、単なる情報処理ではなく、「技術的手段による技術的課題の解決」として認識されやすくなります。
(3)「ブラックボックス的記載」は避ける
モデルの内部処理が不明確なままでは明細書要件を満たせません。たとえ学習アルゴリズムや重みパラメータの詳細を全て記載できないとしても、どのような構成で学習され、どのような用途で推論されるのかを記載する必要があります。
◆まとめ
AI関連発明は、既存技術との差別化や記載の具体性を確保することが、特許査定のカギを握ります。審査官の視点を意識しながら、論理的で再現可能な形で発明を記載することが、拒絶理由の回避・克服に直結します。