AI関連発明[第7回]:既存システムにAIを組み込んだだけで特許になるのか?

◆はじめに

「既存のシステムにAIを後から追加しただけでは、特許にならないのでは?」という疑問は、AI導入を検討する多くの企業で共通の関心事項です。AIを活用したからといって直ちに特許性が認められるわけではなく、特許出願においては“技術的思想の創作”に該当するか、新規性はあるか、進歩性はあるかなど、厳しく審査されます。

人工知能と仲良くする人たちのイラスト

◆単なるAIの導入だけでは不十分

たとえば、既存の検索システムにAIによるレコメンド機能を追加した場合、それだけでは「単なる設計変更」とみなされる可能性があります。特許庁では、“既存手法の置換”にすぎないと判断されると、進歩性が否定される傾向があります。

◆特許として認められるケースとは

AIの導入が「技術的課題の解決」につながっており、そのための具体的構成や制御手段が工夫されている場合には、特許性が認められる可能性があります。例えば、AIを用いてセンサーデータを解析し、従来は不可能だった異常検知を実現したケースや、AIを組み込んだことで予測精度が大幅に向上したような場合です。
以下、具体的なケースを説明します。

■ 1. AIの導入が「技術的課題の解決」につながっていることが前提

特許法上、単なるビジネス上の改善や見た目の利便性の向上ではなく、「技術的課題に対する技術的解決手段」が必要です。AI導入がこの“技術的課題”に実質的に寄与していれば、特許性が認められる可能性が高まります。

例:
– 既存のセンサでは捉えきれなかった異常の早期検出
– データのノイズに強い診断システム
– リアルタイムでの交通最適化による配送遅延の解消

■ 2. 単なるAIの適用ではなく、“具体的な構成や処理フロー”の記載が必要

AIを使って何らかの推論や判定を行っているだけでは足りません。「どういう入力を使い、どういう学習・推論処理を行い、どのような出力が生成され、それがどのように既存システムと連携しているか」を技術的に具体化することが重要です。

記載すべきポイント:
– 入力データの種類と前処理方法
– 学習済みモデルの構成(例:多層ニューラルネットワーク、決定木)
– 推論処理のタイミング・条件
– 出力結果を用いた次工程の制御や処理へのフィードバック機構

■ 3. “AIがいなければ達成できない効果”を明確に説明する

AIの導入が、従来技術では困難だった技術的効果をもたらすことを明記すると、進歩性が認められやすくなります。

効果の例:
– 誤検出率の大幅な低下(従来:20%、AI導入後:5%)
– 処理時間の短縮(従来:5秒、AI導入後:0.5秒)
– 運転エネルギー消費量の削減(従来比30%減)

構成との関係の例:
「AI推論部が、センサ群から取得されたマルチモーダルデータを統合的に解析し、従来では検出できなかった異常兆候を検出可能とした。その結果、システム停止前にメンテナンス通知が可能となり、突発停止の予防率が大幅に向上した。」

■ 4. 構成と効果を結びつけて記載することが重要

効果だけを強調するのではなく、それを実現するための装置構成・制御方法が明示されていることが求められます。構成の工夫・制御の工夫を図示やフローで示すと、審査官にも分かりやすくなります。

◆検討すべき観点

システムにAIを導入することで、様々な恩恵を受けることが可能になります。特許出願においては、その恩恵を技術的な効果として示すことが重要になります。そこで、以下の観点を参考に、AIを導入したシステムが特許になるか否か検討してみてください。

・AIを導入することで、どのような“新たな効果”が得られているか?
・その効果を生むために、AIをどのように利用しているか?
(モデルの構成、学習方法、推論のタイミングなど)
・全体システムにおける役割は何か?
・従来構成との違い、従来課題との関係性は?

これらを明確に示すことが、特許出願時に非常に重要です。

◆実務上のポイント

出願書類には、「構成 → 動作 → 効果」の流れを明確に記載することが望ましいです。AI部分のみを抽象的に記載するのではなく、システム全体との関係を示しながら、どのように課題を解決しているかを丁寧に説明することが、審査官の理解を助け、権利化の可能性を高めます。

◆まとめ

AIを導入しただけでは特許にならないことは確かですが、導入によって技術的課題を解決する構成が伴っていれば、十分に特許の対象となり得ます。重要なのは、“AIをどのように活かして何を達成したのか”を技術的な視点で明確に説明することです。