◆はじめに
近年、AIを一部に組み込んだ発明が増加しています。例えば、AIが単に数値を予測したり、分類結果を出力する補助的な位置付けで使われているケースです。
このような発明でも、工夫の仕方によっては特許性が認められる可能性があります。本記事では、「AIを一部利用した発明」とは何か、その定義や出願上のポイントを解説します。
◆AIが一部で利用されるとはどういうことか
「AIを一部利用した発明」とは、全体の構成の中でAIが一部機能として使われているものを指します。
たとえば、以下のようなケースが該当します。
– 予測結果に基づいて別の処理を行うフローの一部にAIを導入
– センサデータの分類や異常検出をAIで行い、その後の処理に活用
– 従来はルールベースで行っていた判断をAIモデルに置き換え
◆特許出願で重要な観点
AIを補助的に使っているだけのように見えても、次のようなポイントを明確にすることで、特許性が認められる可能性が高まります。
– AIの出力結果が全体の処理フローにどのような影響を与えるか
– AI導入により得られる技術的効果(精度向上、効率化など)
– 従来技術との違いを構成上、具体的に説明できるか
「AIを一部利用した発明」の場合でも、出願書類の記載次第で特許性の有無が大きく分かれます。以下、重要な観点を具体的に説明します。
① AI出力の技術的意味付け
「なぜAIの出力が必要だったのか?」という理由を明確にしましょう。例えば、従来技術では判断困難だった場合分けや分類が、AIにより技術的に可能になった、という理由が挙げられます。
また、AIを構成に加えたことによる出力結果が処理全体にどのような影響を与えるかを明確にしておくことも重要です。例えば、AIの異常判定により装置を停止する、出力スコアに応じてパラメータを自動変更する、といった内容が挙げられます。
② AI導入による技術的効果の記載
一部機能として用いられるAIを導入したことで得られる改善効果を具体的に記載することで、技術的効果が明確になります。例えば、誤検出率の低減、処理時間の短縮、などが挙げられます。このとき、「予測精度が向上した」ということだけでなく、従来技術との違いや課題解決の具体性を明記することが重要です。
③ 従来技術との差異の説明
「AIを使っただけ」では進歩性が否定される可能性があります。そこで、フローチャートや構成の中で、AIの導入による従来技術との違いを具体的に説明することが必要になります。
④ 明細書の書き方の工夫
AIを手段として導入することで従来存在した課題が解決されることが効果に対応すると言えます。つまり、「課題 → 手段 → 効果」の論理構成を意識して、明細書を書くことが好ましいです。例えば、導入するAIに関連する情報として、例えば、以下の情報を記載すると論理的な説明がしやすくなります。
・入力データの種類や特徴
・学習データの構築方法(業務特化型など)
・AIの出力形式
・出力と後続処理の関係性
以下に、AI導入による技術的効果と構成の関係に関する記載例を業務ごとに示します。
1. 製造業における異常検知AI
【技術的効果】
異常を事前に検知できる → 設備停止の回避率向上、誤検出率低下
【構成との関係の記載例】
本発明に係る製造装置監視システムは、各種センサ(温度・振動・電流)からの時系列データを収集し、特徴量抽出モジュールにより特徴ベクトルを生成する構成とした。
生成された特徴ベクトルは、機械学習により構築された異常判定モデルに入力され、異常スコアが算出される。
従来のしきい値判定では対応困難であった複合的な異常パターンに対しても、本構成により早期の異常兆候検知が可能となり、実装において誤検出率を20%→5%に低減した。
2. 医療診断支援AI
【技術的効果】
診断支援の精度向上、作業時間短縮
【構成との関係の記載例】
患者データ処理システムは、電子カルテ情報取得部、自然言語処理部、及び診断支援AIモジュールを備える構成とした。
自然言語処理部は、カルテの非構造テキストから所定の疾患に関連する医療用語を抽出し、ベクトル化する。抽出されたデータはAIモジュールへ入力され、過去の診断データとの類似性に基づきリスクスコアが出力される。
この構成により、医師の見落としを補完し、平均所要時間を15分から5分に短縮しつつ、早期発見率を1.8倍に向上させた。
3. ECサイトでの需要予測AI
【技術的効果】
在庫の最適化、過剰在庫削減
【構成との関係の記載例】
予測システムは、販売履歴DB、外部データ統合モジュール(天候・SNS)、および深層学習ベースの需要予測モデルを含む構成とした。
外部データ統合モジュールにより、従来利用していなかった非定型データも含めて時系列データを生成し、モデルへ入力する。
この構成により、従来平均化のみであった予測に比べ、トレンドや突発イベントを織り込んだ予測が可能となり、在庫過剰率を35%から12%に低減した。
4. ロジスティクス・配送ルート最適化
【技術的効果】
配送時間短縮、CO₂排出削減
【構成との関係の記載例】
本発明は、配送計画生成装置において、GPS情報収集モジュール、交通状況取得API連携モジュール、ならびに深層強化学習ルート選定モジュールを備える構成とした。
各ドライバーの現在位置と交通状況をリアルタイムで取得し、ルート選定モジュールが報酬最大化方針に基づき最適経路を決定する。
この構成により、従来静的に定めていたルート選定では対応困難であった渋滞回避や遅延最小化が可能となり、配送時間を平均12.4%短縮した。
5. 顧客対応チャットボットにおけるNLP活用
【技術的効果】
応答の精度・自然さの向上、オペレーター負荷の軽減
【構成との関係の記載例】
顧客対応システムは、問い合わせ取得モジュール、自然言語理解部、FAQ分類器、および応答生成部を備え、ユーザーの入力に対して文脈を保持しながら回答を生成する構成とした。
本構成では、事前学習済み言語モデルをファインチューニングし、企業独自の問い合わせ傾向に特化させている。
これにより、静的FAQに比べ応答の柔軟性が向上し、自己解決率が40%→72%、オペレーター稼働時間が25%削減された。
◆注意点と工夫の方向性
単に「AIを使っている」と記載するだけでは、進歩性が認められない可能性があります。
AIの具体的な使い方や全体構成との関連性を、図解や実施例を通じて詳しく記載することが求められます。
また、AIの学習対象や処理対象が業務特化型であることを強調するのも有効です。
◆まとめ
AIを一部利用した発明であっても、構成や効果を具体的に説明できれば、十分に特許取得の可能性があります。補助的に使っているからといって諦めるのではなく、他の技術要素との連携を意識した記載が重要です。