AI関連発明[第5回]:業務へのAI導入を特許戦略にどう位置付けるか

◆はじめに

AI技術の導入は、業務効率化や品質向上を目的とした取り組みとして、さまざまな業種で進められています。
しかし、AIを単なる業務改善の手段として導入するだけでは、競合との差別化や技術的優位性を確保することは困難です。
本記事では、業務へのAI導入をどのように特許戦略と結びつけるか、その考え方と実践のポイントを解説します。

AIに仕事を任せる人のイラスト

◆AI導入フェーズごとの特許戦略

ここでは、AI導入フェーズを「試験導入・PoC段階」、「実運用段階」、「高度化・差別化段階」の3つのフェーズに分けて説明します。

[フェーズ1:試験導入・PoC段階]

フェーズ1では、まず自社の業務でAIを活用できそうな可能性を洗い出し、試験導入を検討します。はじめから完璧を目指す必要はありません。例えば、業務の効率化や、自社の製品・サービスの向上など、身近な課題から取り組むのもおすすめです。

– 業務の効率化:反復的な作業や調査業務などを自動化できないか?
– 価値の向上:顧客へのサービスやプロダクトにAIを組み込んで魅力を高められるか?
– 意思決定の支援:膨大なデータを活かして分析・予測の精度を上げられるか?

この段階の特許戦略としては、AI関連発明だけでなく、業務課題と解決方法の整理することが重要です。課題の解決に、AIの利用以外のアイデアが生まれる場合もあるため、その場合にはアイデア段階でも先に出願しておくことで、先願を確保することも可能になります。

[フェーズ2:実運用段階]

フェーズ2では、フェーズ1で検討されたAIを業務フローに組み込み、定常運用を開始させます。定常運用を繰り返すことで、試験導入段階では発見できなかった問題や、さらに必要な要求を明確にすることができるため、AIの活用による具体的な効果(例:効率化率や精度改善)が明確になります。

この段階の特許戦略としては、システム構成やデータ処理手法を明記することが重要です。この構成や手法をそのまま特許出願に利用することもできますし、業務の改善点も可視化することが可能になります。

[フェーズ3:高度化・差別化段階]

フェーズ3では、定常運用を繰り返す中から発見できた独自のノウハウや、業界に特化した処理をAIに取り込ませることで発展させることを目標とします。フェーズ2で発見された問題や要求を明確にしておくことで、スムーズにAIを発展させることが可能になります。

この段階の特許戦略としては、自社で独自に構築したモデルやアルゴリズムに着目し、AI関連発明として保護対象を拡張することを検討します。特に、自社では当たり前のように改善してきた技術であっても、他社からしてみれば、目新しい技術であることも少なくありません。「周りもやってるだろう」ではなく、「周りはやっていないだろう」という観点から、客観的に技術を分析することが必要になります。

◆特許戦略と事業戦略の連動

AIを導入する目的が「業務改善」だけであれば、必ずしも特許取得は必要ではありません。
しかし、その業務改善ノウハウが競争力の源泉となる場合は、特許として形式知化・独占化する意義があります。

– 提案営業での差別化資料として利用可能
– ライセンス提供の基盤として活用可能
– 他社による模倣や追随に対する防御策になる

◆まとめ

AI導入は業務改善のためだけではなく、知財戦略と結びつけることで、企業競争力の中核となる資産に変えることができます。導入の初期段階から「どの要素が技術的に新しいか」「他社と何が違うか」を意識し、出願のタイミングと内容を戦略的に設計することが重要です。