AI関連発明[第4回]:「AIを使った発明」と「AIそのものの発明」の違いとは?

はじめに

AI関連技術の特許を検討する際に、まず押さえておきたいのが、「AIを使った発明(AI適用発明)」と「AIそのものの発明(AIコア発明)」の違いです。両者は、主張すべき発明の観点が異なるため、適切な整理が必要になります。

AIの家族のイラスト

◆「AIを使った発明」と「AIそのものの発明」の比較

[AIを使った発明(適用発明)]
・概要:既存のAIを業務やシステムに適用する発明。AIは「手段」として位置づけられる。
・例:診断支援AIを組み込んだ医療支援システム、需要予測AIを活用した在庫管理システム

[AIそのものの発明(コア発明)]
・概要:AI自体の構成や学習・推論アルゴリズムの新規性に着目した発明。
・例:新しいニューラルネット構造の提案、独自の強化学習手法の開発

特許庁では、「AI 関連技術に関する事例について」という事例集を公開しており、この事例集を参照することで、具体的なイメージを持つことができます。

[AIを使った発明(適用発明)]
〔事例 34〕 ニューラルネットワークを用いて推定するシステム
発明の名称:水力発電量推定システム

[AIそのものの発明(コア発明)]
〔事例 39〕モデルの学習方法
発明の名称:放射線画像の輝度調節に用いられる学習済みモデルの学習方法
〔事例 54〕 ニューラルネットワークを機械学習させる装置
発明の名称:ネジ締付品質推定装置

 

◆開発段階ごとに分類を使い分ける

中小企業がAIを活用する際、多くは「AI適用発明」からスタートすることになります。しかし、開発が進むにつれて、独自のモデル設計や最適化技術が生まれた場合は「AIコア発明」として出願を検討すべきです。

検索する人工知能のイラスト

[PoC・実証実験フェーズ]

PoC (Proof of Concept) フェーズは、新しいアイデアや技術、サービスなどの実現可能性や効果を検証するためのフェーズです。ここでは、AI適用発明が検討され、AIの適用対象と技術的課題の明確化が必要になります。

[事業化・サービス化フェーズ]

AIを用いて実際に事業化を進める過程では、サービスにAIを適用(すなわち、AI適用発明を利用)することで、サービスとAIを統合した発明が生み出されます。 ここでは、AIを組み込んだシステム構成の工夫が必要になります。

[自社AI開発・高度化フェーズ]

具体的なサービスを提供した後は、自社のシステムを高度化するため、AIそのものを改良することでAIコア発明が生み出されることがあります。ここでは、アルゴリズムや学習構造の独自性が強調されることになります。

◆まとめ

「AIを使った発明」と「AIそのものの発明」は明確に分けて考える必要があります。自社のAI活用の位置づけを正しく把握し、それぞれに合った出願戦略を立てることが、知財戦略の第一歩です。