AI関連発明[第2回]:AIと特許の関係 ― そもそも何が守れるのか?

◆AI技術は特許の対象になるのか?

「AI技術は特許で守れるのか?」という質問をよく耳にします。答えは、「一部は守れるが、一部は守れない」です。

AIに関する発明が特許として認められるには、特許法上の要件を満たす必要があります。単なるアイデアや数式的な手法ではなく、技術的な課題を解決する手段として構成された場合に特許化の可能性があります。

ここのでの「単なるアイデア」とは、概念的な表現であり、例えば「AIを使って自動で仕事をさせる」のようなものです。やりたいことはわかるが、それをどうやって実現するかまでは明確ではない状態のものと言えます。

◆特許で保護されるAI関連技術の例

AI技術において、以下のような要素が特許として認められる可能性があります。

– 学習モデルの構造(例:特定のネットワーク構成や処理フロー)
– データ前処理の方法(例:業務特化・精度向上のための手法)
– 推論結果の利用方法(例:業務フローへの適用による課題解決)
– AIの統合方法(例:他システムとの連携による機能強化)

学習モデルの構造やデータ前処理の方法は、AIそのものの性能を向上させるものであるため、多くの場合、AIによる推論結果をどのように利用するか、AIを他システムとどのように連携するか、という観点での保護を検討することが多くなると思われます。

◆保護されにくいAI関連技術

一方で、以下のような技術は原則として特許対象とはなりにくいです。

– 汎用的なアルゴリズムそのもの(数学的手法に該当)
– 公開済みの学習済モデルの利用(新規性・進歩性を欠く可能性)
– 単なる業務ルールのAI化(自動化のみでは技術的課題と評価されにくい)

例えば、「データとの差分を小さくするようにパラメータを更新する」といった処理は、モデルを学習する際に汎用的に用いられるアルゴリズムであると言えます。また、公開済みの学習モデルを既存の方法と同じ方法で利用することや、僅かな違いで利用するだけでは、新規性(新しさ)や、進歩性(思いつきやすさ)の観点で権利化することは困難です。

◆特許で守る vs 営業秘密で守る

特許で守るべきか、営業秘密として保持すべきかは、AI活用戦略における重要な判断ポイントです。特許で守る場合、権利化するために出願をする必要がありますが、出願された発明の内容は、1年6月を経過するとその内容が公開されることになっています。発明者には権利を付与して独占的に実施できるようにする一方、それ以外の人(第三者)は、公開された発明を利用してさらに産業の発達に寄与できるようにするという、特許法の法目的に沿うものなのです。

[特許で保護する場合]
– 公開するが、排他権を取得して実施を独占できる
– 保護期間は原則20年
– 出願・審査のコストがかかる

[営業秘密として保護する場合]
– 公開しないことで独自性を保持
– 保護期間に制限はないが、漏洩リスクあり
– 社内での管理体制が重要

営業秘密で守っている技術の例が「コカ・コーラの製造方法」です。コカ・コーラの製造方法は出願されず、営業秘密として守られており、会社でも一部の責任者しか知らないといわれています。厳重に管理されることで、実質的に独占実施ができているケースと言えます。

例えば、AIの学習方法などは、権利化しても相手がその学習方法を実施しているか認定するのが難しいのが現状です。そのため、そのような発明は、社内のノウハウとして管理することも一案としてあげられます。

◆まとめ:AI活用こそ保護戦略を明確に

AI技術は全体が特許で守れるわけではありませんが、構成や用途に応じて守れるポイントがあります。

AI導入に際しては、「どこに独自性があるか」「どの要素を守るべきか」を意識することで、知財の強みを活かしたビジネス展開が可能になります。

「このAI技術はどのように保護すべきか」、と迷われている方は、お気軽に弊所までご相談ください。